血飛沫が断末魔の代わりに降り注いだ。武具を持つ手が滑る事に舌打ちをしながら、名も知らぬ生き物に振り下ろす。
斬り棄てた幾多の命に罪悪を感じる優しさなど、最初から持ち合わせていない。ただ目の前の敵を効率よく断つ事だけを考える。馬の腹を蹴り人の塊を斬って裂いて殺して屠って、視界を赫く染めながら愛刀を振るう。
気づけば違う色の鎧が視界から消えて、重みの増した刀を降ろした。自城の方向へ馬首を返す。
おまえは知らないだろう。
振り返るとおまえが居てくれる。それだけでもう、俺は救われるんだ。
痛い程の静寂と死の臭いが支配した戦場から、返り血にまみれたまま振り返っても。おまえはいつもの憮然とした貌で、腕を組んで俺をただ見返す。
それが俺にとってどれ程の意味を持っているかなんて、おまえは知るはずもない。
もし。もしそこに、おまえが居なかったら。
俺、ただの人殺しだ。
俺は俺の信念を持って戦っているがそれでも、それがただの殺戮と何ら変わりないのも知っていた。屍の山を踏みにじって血溜まりを跳ね上げて、そんな風にしか生きられない俺を、真直ぐに夕闇色の双眸は見つめている。そこには恐怖も軽蔑も嫌悪もなく、ただ俺を映す。それだけで、俺は生きていていいのだと感じる。
おまえの心許ない身体は硬く尖り、抱き締めると重なり合った部分が鈍く痛む。取るに足らないその些細な痛みに、俺はどうしようもなく安堵する。
重なり合う事さえ痛みを伴う。荊の棘のような厄介さに耐えてでも、抱き締めなけれなならない人間が俺にも居るのだと。奪うしかできない俺でも慈しむ事ができる命があるのだと、教えてくれる。
だから俺は夜毎、言葉にできない想いごとおまえを抱く。
「何処にも行かないでくれ」
「……莫迦を言う」
知っている。おまえは誰のものでもない、おまえのものだ。だからおまえが帰ると言えば、俺には止めようがない。縛って閉じ込めてでも側にいればいいと思っているのに、俺には何もできない。ただ呪うように、この一瞬が永遠であるようにと願っている。
こんな俺を、おまえは知らなくていい。
「ただいま」
おまえは俺の還るところだから。
毎度、片眉を上げて律儀に「ああ」と短く応えるおまえが好きだと言ったら、おまえは笑うだろうか。
笑ってくれればいい。
気違いじみた狂乱の只中で、ただおまえの存在が、俺を赦してくれている気がする。おまえがここに在る限り、俺はまだ大丈夫だと思えるんだ。
作成日: 2008/12/02
RGRの基本は、GR郭嘉が蚩尤の存在に救われるのが前提ですが、蚩尤も同じぐらいGRに救われていればいいと思いました。蚩尤の愛情はこんなに薄っぺらいものではないと思いますが。