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言葉

武骨な手が、私の脚を撫でた。体内に異物が侵入する感覚は、何度受けても慣れないもので、どうしても身体が震えてしまう。だからあなたはいつも、幼子を宥めるように、汗ばんだ掌を私の肌に滑らせる。そのような事はしなくていいと、毎度言っても聞く耳を持たない。

小さく息を吐いた。このような時には何故かいつも、泣き出しそうになる。痛みでも悦びでも苦しみでもなく、赤子のようにただ声をあげて、心を洗うように。

それは儀式か何かなのだろうか。一番最初にあなたは私に必ず何事かを囁く。そうしなければ私に触れられないかのように。私は最初から、嘘だと言った。何度も何度も、そんなものは虚構だから、口にするなと。

第一、あなたは私より強い。花を手折る容易さで私の息の根を止められるあなたは、私を自由にする権利があるのだ。それなのに、

「好きです」

そのような台詞を、毎度律儀に吐き出さずとも良いのに。

「……それは、免罪符なのですか」

唇の端だけで嗤うと、ひどく傷ついた貌をした。あなたの行為にもその嘘にも、私は瑕(きず)など付かぬというのに、よわい人だと思う。それでもいつだって、あなたが私を巡る指は、やさしい。

「やめてください」

力で屈服させられている立場の私がいかに懇願しようが、無駄なのは知っている。だから今まで抵抗などした事がなかった。だが、そんな事は忘れたように、無様にもうわ言のように繰り返す。

あなたは私の声など耳に届かないとでも言うように、止める事をしない。私の昂りをその口に含んだまま思いきり吸われ、だらしなく開いたままの口唇から恥ずかしい声があがった。快感と苦痛が綯い交ぜになる感覚に、涙が滲む。

あなただけが快楽を享受すれば良いではないか、なぜ私にこのような事をする。これは罰なのか、私の無力さへの。

「申してくださいませぬか」

ああ、そうだ。自身の根元を縛られているのは、私が何も言わぬからだった。くだらぬ戯言を一言、口にしてやればいいのは分かっている。

「厭です」

ひたすらかぶりを振る。そのせいで不興を買って殺されるなら、それも致仕方ない事だ。最早痛みでしかない快感が、ふと止まる。そして、ぼろぼろと零れている涙をそっと拭われた。

「そんなにも、俺が嫌いですか」

口唇を噛んで、今にも泣き出しそうな児のような貌をして。とても一騎当千の将には見えぬな、とぼんやり考えてから、その視線から逃れるようにあなたの嫌う嗤い方をした。

私も好きだと、ただ一言吐いてやれば、この苦痛でしかない施しも終わると知っている。未だ解放されぬ自身は、透明な露を垂らして震えている。それでも、私は言いたくなかった。何も。

「私を抱きたがるような男を、好きになるとでも?」

腹の内で用意していたものよりも更に乾いた音が出た事に、笑い出しそうになる。あなたは俯いて、私を縛っていた戒めを解いた。何度か扱くだけで私の身体は痙攣し、白濁の体液を放出した。長らく待っていた快感が、頬に新たな水を転がせる。それをまた丁寧に拭うあなたは尚も伏せたままで、表情は伺えなかったが、もうどうでもよかった。

これで全てを諦めて、私から去ればいい。

浅ましいこの身体は、あなたを咥えこんで離さなくなるだろうから。

この昏い褥では、目を凝らさなければ世界は全て闇に溶ける。最早あなたの姿は見えず、ただ何かが私を揺さぶっているだけだった。それでいい。いつものように、私の名など呼び続けなくていい。内臓を抉られるように穿たれて、思考が官能に塗り潰されてゆく。自分の嬌声が、ひどく遠かった。

「好き、です」

何も聞こえない。

「信じていただけずとも、俺は、ずっとあなたを」

聞こえないと言っている。

「ほうこう、どの」

「っ、私、には」

あなたのその行為と、暴力の違いが、分かりませぬ。

意味を持たない喘ぎと呼気の合間に、切れ切れに押し出した。伝わったかどうかなど知らないし、どちらでも良い。私からはもう、あなたは見えないのだから。今、闇の中から頬にかかった粒が何かなど、知りたくもない。

ただ、このような時でさえ、私を殺せる指は、やさしかった。


作成日: 2008/12/06

NOT清純派Rたん、第二弾。敬語な遼郭萌えるよ!褥の中でもお互い敬語だといいよ!と思い立って、気付けばこんな仕上がりに。なぜ…どこで間違えた。敬語か、敬語のせいなのか。恋愛感情を信用しない受って大好物なのですが、今回は色々しくじった感が。ううむ…いつかリベンジしたいです。