今回で50回目
最初は応援していた仲間達も今や黙って、手に貢物をもって敵国へ通う男の背を見送った。
何時出合ったのか、何処に惚れたのか……それにはまったく触れずただ健気に惚れた者の元へと通う恋する男の姿を生暖かい目で見送った後、仲間達は深いため息をつくのだった。
かれこれ49回通い、始めの5回は貢物さえ受け取ってもらえずしょんぼりと大きな体を丸めて敗北して帰ってきた。
6度目は受け取ってもらえたのか今までとはうってかわってとても嬉しそうに……今にも飛び跳ねそうな勢いで彼は帰ってきた。
10回目からはようやく屋敷に迎えてもらい、17回目からは話に短いながらも返事をしてくれるようになったとか。
かなり眠くなるようなゆるやかな進歩だがそれでも諦めない男にもはや周りも黙って見守るしかない。
25回目からは茶をだされるようになり、33回目にしてお菓子を出してもらえ、40回目にようやく相手の好きな食べ物を聞きだすことに成功した。
もはやそこまでゆるやかだと周りも笑うしかない……。
しかしその男はそれでも真剣に喜んでいるので手の打ち所がないというか……
好物の中身ぎっしり点心を両手一杯に持っていったのが良かったのか、なかなか良い雰囲気になったのが48回目。
良い雰囲気といっても会話が途切れずに済んだというだけであるが、それも今までなかったことなので男がそう思っても仕方が無いだろう。
49回目男はとうとう焦がれる想いを抑えきれず「好きだ、付き合ってくれ!」と言ってしまったのである。
流石に49回も貢物を持って現れるのだから男の気持ちに気づいていたはずの相手は「勝手にしろ!」と怒鳴って男を追い返したとか。
さて、今回50回目を迎える男だが。
「勝手にしろ」の『勝手』とはどう捕らえたらよいものだろうかとうんぬんと考え込んでいる。
つまり、自分の好きなようにしても良いということ……だろうか?
となると付き合っちゃっていいんだろうか……?
ということは晴れて恋人として恋人の家に訪ねちゃっても大丈夫ということだろうか……?
などなど。
50回通い、彼の一方的な解釈だがようやく二人は恋人同士となった訳だ。
だがしかし、恋人(?)となったとしてもやはり進歩はゆっくりなわけで。
「奉孝殿。」
「奉孝……?」
屋敷に迎え入れてもらい茶と菓子を出してもらったお礼にと彼の好物……しかも有名なお店のだ……を差し出し当たり障りの無い会話をしていた時だった。
張遼がさりげなく相手を字で呼んでみたのだ。
恋人同士なのだし……そろそろ字で呼んでも良いのではないだろうかと思ったのだが、彼が口にした途端呼ばれた方は怪訝な顔つきで張遼を睨みつけたのである。
いや別に睨みつけたわけでも不快になったわけでも無いのだが郭嘉の目つきは普段から悪い所為で張遼がそう思ってしまうのも仕方がなかった。
ちょっと早かったかな……?と怒鳴られて追い出される事を覚悟した時。
「なんだ文遠。」
耳を疑った。そして何度も今の言葉を頭の中で繰り返し張遼は目を見開き相手を見つめた。
夢か……?いや夢じゃない……はず。
余りの嬉しさに張遼は立ち上がって前かがみになり卓上にあった郭嘉の手を両手で握り締めた。
途端
「離せ馬鹿!!!!」
罵倒と平手が飛んでくる。
軍師といえど油断しきった相手に痛手を食らわせる事は可能で。
いきなりの打撃に張遼が怯んだ隙に郭嘉はとらわれた手を取り戻した。
痛む頬を抑えがくんと沈む張遼は惜しい事にその時顔を真っ赤にした郭嘉の顔を見ることは出来なかった。
「驚かせてすまなかった……。」
「煩い。とっとと帰れ!!」
「あ、ああ。邪魔をした。また来る。」
しょんぼりと、素直に言われたとおり帰る張遼の姿を息を荒くした郭嘉が見送る。
張遼と入れ替わるように鮮やかな菓子を持って現れた荀イクはさっきまで張遼が座っていた椅子に座るとやれやれと口を開いた。
「奉孝?あまり冷たくせずにもう少し優しくしてあげたらどうです?」
「……あんな直ぐ謝って反論もしない奴なんか知るか。」
男ならもっと押して来いという郭嘉。
だがしかし、この後引かずに押す事を覚えた張遼に郭嘉は更に冷たくするのだが、実はそれが彼なりの愛情表現だったのだと荀イクは気づくのである。
そして頬に赤い手跡をつけた張遼を迎えた彼の仲間たちは付き合って初日で別れたのかと彼を気遣ってその日は皆優しかったとか。
「ば、ばか!!離せ!!!!」
「うぐっ……。」
顔を真っ赤にして圧し掛かる体格に違いがありすぎる男の腹や顔を思い切り殴って暴れるのが魏軍軍師郭嘉で、彼に圧し掛かり思い切りあちこち殴られ体中傷だらけな男が呂布に仕える張遼である。
この二人、会ってはいつも言い争い(といっても郭嘉が一方的に)仲はそれほど良いといえたものではないが実は恋人同士だ。
張遼の一目惚れで何度も敵国に通いそしてようやく恋人という地位を手に入れたのだ。 長い月日を要したがそれでもその時の嬉しさは今までの苦労を忘れるほどだった。
そんな二人。今の時代ではあり得ないほどのゆっくり進展で、郭嘉が見ての通り初心いのでそれはもう清いお付き合いだ。
だがしかし14、5の可愛らしい歳でもない大の大人なのだからそろそろ夜のお付き合いだってしていいはずだ。
そう張遼が郭嘉に言ったのが一週間も前の事だった。
彼の反応はまあ張遼の予想通り……
「ふざけるな!!!」
そう言われ握りこぶしが飛んできた。
だが張遼は諦めはしなかった。
逢瀬をするたび夕刻になると何度も何度もしつこく彼に同意を求め、そしてその度顔に体に傷を作り国へと帰っていくという事を繰り返した。
そしてとうとう我慢しきれず郭嘉を押し倒したのだ。
体格に違いがある分彼を押さえ込むのは容易い。まあそれまで至るのが大変なのだが。
「それ以上何かしたら殺す!!」
「お前に殺されるなら本望だ。」
張遼は郭嘉が顔を真っ赤にさせ怒鳴ってももはや聞き入れないつもりだ。
それどころか押し倒した男が暴れて抗った方が何故か燃えてきたのだ。
暴れて着崩れた胸元に手を入れると体が強張り更に罵倒が厳しくなる。
この張遼、今まで随分酷い扱いを受け酷い言葉を浴びるように言われ続けていたためか感覚が麻痺してしまっていたのだ。
そのため張遼は郭嘉の罵倒に怯む事もなくどんどん郭嘉の剥いでいく。
露になった白い肌に目を奪われながら鎖骨の上あたりに張遼は食らいついた。
「あっ、」
思わず上がった郭嘉の声に張遼は調子付く。
そのまま吸い上げ痕をつけると徐に手を胸元へと降ろし……
「さ、触るな……や、やだ……」
いつも強気の郭嘉の声が弱弱しく、張遼は驚いて顔を上げ顔を覗きこむ。
と、潤んだ瞳とぶつかり張遼は訳もわからず狼狽した。
か、かわいい……!!!
行為を止め見入ってしまった張遼を見て郭嘉は「今だ」と身を捩り拳を振り上げる。
もちろんそれは張遼の顔面に綺麗に納まり、張遼が退いた隙に郭嘉はせっせと剥がされた服をかき集め逃げ出す。
「馬鹿、死ね!!もう二度と来るな!!!」
そうして張遼は暫く顔すら合わせてもらえず、ほとぼりが冷めた頃再挑戦して同じように敗北してしまうのであった。
和也さまより 下賜日: 2008/11/03
RGRを書いていただけるなんて…!2本も!(感涙)ヘタレ犬なくせにツボを心得ている蚩尤と、犯罪級に可愛すぎるツンギレGRに、めちゃくちゃ悶えました。タイトル勝手につけてスミマセン…(笑)
和也さん、ありがとうございました!!