- 「夜の淵に触れ」
- 闇を恐れるようになったのは何時からだったろう。
- 思い出せないのはきっと、わたしにすら気取かれない自然さで、あなたが傍にいたからだ。
- いつだって全てを覆い隠してくれていたのだ、あなたは。
- 与えてばかりだったあなたに、わたしは何ができる。何を返せばいい。
- 持ち上げた腕は信じられないほど脆弱で、かさかさの指先が虚空をきる。
- わたしに残された刻はほんの僅かなのに、あなたに遺すものひとつ見つけられない。
- 己が死よりも、あなたに忘れられる事の方が辛いというのに。
- 作成日:2007/10/25